創造性のもととなる「思考力育成」をテーマに幼児教育、小中高生研修、企業研修を行う一般社団法人です。

STEM学習の支援を目的とする空間思考の利用

Andreas Schleicher, “Harnessing Spatial Thinking to Support Stem Learning”, OECD Education Working Paper No.161, 2017.

先回に続き、A.シュライヒャー氏によるワーキンググぺーパーのご紹介です。
空間思考能力が就学後の算数・数学能力の成長を左右するということを本コラムでは繰り返し確認していますが、その根拠となる研究が様々に出されていることがお分り戴けたかと思います。

ではその効果はどれくらいなのか?
これまでにも、未就学時の空間思考能力が就学後の算数能力の向上に関わる、というようなことは見てきました……しかし、その結果、どれくらいの差が生じるのでしょうか?
今回はその点を確認してみましょう。

「空間思考能力」のトレーニング効果

空間思考能力のトレーニングはどれくらいの効果をもたらすのか……これは様々な研究があるのですが、実験手法等がそれぞれに異なっているため、全体としてどうか、という話をするためには「メタ分析」と呼ばれるものが必要になります。具体的には効果量というものを測定するのですが、実際に各研究をまとめてメタ分析を施した研究が本論文では取り上げられています。

以下のグラフをご覧下さい。

David H. Uttal et al, “The melleability of spatial skills: a meta-analysis of training studies”, in Psychological Bulletin, vol.139, No.2, 352-402, 2013. より

これは、様々な実験で空間思考のトレーニングを行った人たちが、トレーニングを受けなかった対照群と比較してどれくらい能力が向上したのかを示したもの(各実験での平均値の差を標準化したもの)です。点線が対照群、実戦が実験群を表しており、スコアが向上する側(右側)に全体が動いていることが分かります。
ではこれがどれくらいの差なのかと言うと……グラフの右側にある、濃淡2種類の灰色のゾーンに注目して下さい。薄い灰色は、トレーニングをしなかった場合にエンジニアとしての平均値をクリアする人の割合を示しています(上位14%程度)。対して、濃い灰色はトレーニングを受けたことでエンジニアのラインを新たに超えた人の割合を示しています(上位28%程度)。結論としては、トレーニングを実施することでエンジニアとしての適性を備えた人の数は2倍になることが見込まれるということです。
トレーニングの効果に個人差があることはどうしようもありませんが、しかし、間違いなく効果はあるということが実験の積み重ねにより明らかになっていると言えるでしょう。
これを見ると、STEM教育と空間思考トレーニングはセットであるべきだと強く感じます。

シュライヒャー氏の関心からか(STEM教育そのものが人材育成という意味合いを持っていますので、当然と言えるかも知れません)、算数・数学の具体的な成績向上については触れられていませんが、これについては以前のコラムでもご紹介した通り、40分のトレーニングで計算問題スコアが5%向上、という研究も報告されています。

少し短いですが今回はこれくらいにして、次回は具体的にどんな取り組みが空間思考能力を向上させるのか、という点を見ていきたいと思います。

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