視空間ワーキング・メモリと数学力(数学能力の発達について)

視空間ワーキング・メモリのタスク時の
脳活動が2年後の算術能力を予測

Iroise Dumontheil and Torkei Klingberg, “Brain Activity during a Visuospatial Working Memory Task Predicts Arithmetical Performance 2 Years Later”, in Cerebral Cortex, Volume 22, Issue 5, May 2012, Pages 1078–1085.

「ワーキング・メモリ working memory」。これは「情報を短期的に保持し操作することを可能にする一連の心的なプロセス」を指した言葉であり、例えば「読み上げられた文章を聞いて、再現する」などといった作業に関わっています。そんな何時間も覚えてはいられないとしても、一時的には覚えていられなければ私たちは会話もできません(聞いた端から忘れてしまい、何と答えていいか分からなくなります)。日頃意識はしなくても、常に働いている重要なプロセスです。また本記事と直接の関連はありませんが、発達障害・学習障害との関連が指摘されるものでもあります。

さて、このワーキング・メモリについては国内・国外を問わず盛んに研究が行われており、個人差があること、またワーキング・メモリの大小が読み書きや算数、理科といった分野の学習進度と密接に関連していることが既に判明しています。
そんな中で今回ご紹介させて戴く研究は視空間ワーキング・メモリ visuospatial working memoryがとりわけ顕著に数学能力の発達に結び付いていること、更にはこの結びつきを広く小学生~高校性までの年代で確認し、実際に2年間のスパンを設けてワーキング・メモリの大小と能力の発達具合との関係を明らかにしたものです。
*加えて、本研究”Brain Activity during a Visuospatial Working Memory Task Predicts Arithmetical Performance 2 Years Later”では脳のMRI画像を撮り、ワーキング・メモリの働きと関連する脳の部位、更にその活動の活発さも含めて研究することで「将来的な学習リスクを抱える可能性のある児童生徒」を発見することを主たる目標としています。本記事は筆者の関心からこの部分を取り上げていない点にご注意下さい。

結論:視空間ワーキング・メモリの大小は、
   数学能力の発達に「児童・生徒の年齢問わず」関係している。

視空間ワーキング・メモリに優れた児童・生徒ほど数学力が向上

本研究は、6歳~16歳(2年後にも教育機関に在籍している年齢の自動・生徒)の計246名を対象に次のように実施されました。テスト項目は次の5つです。

  1.  視空間ワーキング・メモリ
  2.  言語ワーキング・メモリ
  3.  3-nack task (ワーキング・メモリのテストして一般的なもの)
  4.  推論能力
  5.  数学力

これらのテスト結果と2年後の数学能力の発達具合を比較・検証すると、3種のワーキング・メモリのそれぞれと数学能力の向上との間に正の相関関係が見られた中で、視空間ワーキング・メモリにはとりわけ強い数学能力との相関が確認されたことを本研究は報告しています。また、推論能力にも同程度の強い相関が確認されました。
また特に年齢に関わらず2年後の数学能力の向上に相関するということは、視空間ワーキング・メモリの働きを向上させることが数学力の向上に繋がることを意味しています。このトレーニングについては既に研究が行われており、十分に実践が可能です。本コラムでも追ってご紹介したく思います。

視空間ワーキング・メモリは以前に本コラムで取り上げた「空間思考能力」の一部を成すものと言ってよく、当協会の関心から言えば空間思考能力と数学力の結びつきが改めて、また様々なアプローチによって解明されつつあるということになります。
学材やプログラムの更なる開発・改善のため、当協会は引き続き各分野の先端研究の成果を取り入れていく所存です。

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